しずかのぶろぐ

割と暇な人生

その男

その男とはほぼ毎日会っている。
その男の評判は、決して良いわけではない。(むしろ悪い

悪評は噂に聞くだけで、私自身が被害を被ることはこれまでなかったのだが、
今日、忘れられない出来事がおきた。

忘れないうちに、怒りがおさまらないうちに、文章に残しておきたい。
私は、とても、傷ついた。
涙こそ出なかった、というか我慢したのだが、男は私の心を強く抉った。
だから絶対に許したくないし、時間が経ち、自分自身が忘れることも嫌なのである。

男の機嫌は悪かった。パッと見ただけで誰もが分かるくらいに機嫌が悪かった。男の言動・行動は全て機嫌が左右する。
所謂気分屋だ。

穏便に済ませたかった。決済を貰い、判を押したらすぐにでも立ち去りたかった。
男は私を一目見、口を開き、太ったなと言った。そしてなぜ太ったのかと問うた。どう答えたら良いか分からず苦笑する私に畳み掛けるように男は続ける。
太って顔が赤くなっているがどうしてか。美味しいものを食べ過ぎてアレルギーでも出ているんじゃないか。なんで顔が赤いんだ。
そう言われた私はもう、作り笑いさえ出てこなかった。
男の口元には、馬鹿にしたような笑みが浮かんでいた。返答に困っている私を見て楽しんでいるようにも感じた。

周りの人は、黙って私と男のやり取りを聞いていた。

男は私に対して無神経なところがある。私は女性の中では大食漢な方で、性格も男性気質な所がある(らしい)。
だからなのか、割と忙しい部署で営業職についている。(関係ないかもしれないが)
人伝に聞いた話では、男は以前、私のことを「あいつは女じゃないからな」と言っていたこともあるらしい。

男性だとか、女性だとか、ジェンダー的なことを論じるつもりはない。

恐らくあの男も、私だから言ったのだ。私だったらこんなこと言っても傷つかないだろう、泣かないだろうと、そう思って言ったはずなのだ。
実際これまでも何度か言われてきた。
その時は別にどうってことなかった。
少し傷つくことがあっても全て笑いに変えていた。
だが、なぜか昨日は笑えなかった。


とりあえず、用を済ませて早く帰りたかった。彼から判を受け取り、先輩から預かった書類に順番よく判を押した。

すると男が、お前はバカかと大声をあげ、こちらへ来た。
どうやら私の判子の押し方が気に入らなかったようだ。
私はこれまで、右手で判子を持ち、左手で紙を抑え、左手の人差し指を判子に添えて押印していた。
それが自分なりに、一番綺麗に押せるやり方だったからだ。
男は私にもう一度押してみろとテイッシュに押印させ、再度判子の押し方が非常識だと大声で怒り狂った。
片手で押すのが常識であり、両手を使う意味がわからないと大声で説教した。バカじゃないのかと何度も言った。
手を出してみろと言い、彼は自分の掌と私の掌を比べた。お前は俺より手が小さい、俺が小さい判子を片手で握れるのにどうしてお前が握れないんだと怒鳴り、片手での押印を要求した。

だが、従来のやり方を変えてすぐにうまくものではない。自分の書類であればいいが、私が預かっているのは先輩の書類だ。また、判子を押す時間は1日の中で数時間しか許されてなく、中には押印不可の日もあるため、外出等で事務所にいない先輩の分を私が代わりに預かっているのだ。
私は、すぐにうまくできるかわからないので徐々にそうできるようにしますと答えた。だが、その答え方が更に男の怒りに火をつけた。

お前はいつも反抗をする。先日の女性社員対象の身だしなみ講座でもそうだった。反抗せずに、俺が言ったことになぜ全てはいと答えられないのか。判子もそうだ、俺が片手で押せといったのだからお前は黙って片手で押せ。
そう怒鳴ったのだ。

先日、女性社員を対象にした身だしなみに関する意見交換会があった。
講師を交えて全員で議論した中で、トップスのフリルとリボンは清潔感と華やかさがありOKという結論に至ったのだが、その男はフリルとリボンは不快であると首を振った。これに意見した私に対し、未だ怒りがおさまらないようだった。
機嫌の悪さの原因はここにあったのである。

意見交換会で意見することが反抗であるならば、なぜ意見交換会をひらいたのか。
金と時間と労力をかけて茶番劇をするつもりだったのか。

自分の意見以外を認めないのであれば、自身で細かい規定をつくるがいい。
そしてその規定がいずれ自分の首を絞めるのだ。

もう疲れた。



なにが常識で
なにが非常識で




だれが普通なの。